今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
「あっ……」
沙帆は思わず声が漏れていた。
立ち尽くすその前まで、車椅子の車輪が近付く。
三十センチほどの距離間で停まると、咲良はサイドのレバーを引いて車椅子をロックした。
この間は視線がほぼ同じ高さだった咲良は、座った体勢からじっと沙帆を見上げる。
その真顔に仄かに笑みが滲んだ。
「怜士先生に聞いたわ。あなたが誰なのかって」
咲良から怜士の名前が出てきて、沙帆の胸はどきんと大きな音を立てる。
「仕事関係のちょっとした知り合いだって言ってた。怜士先生のお家の病院の掃除もしてるらしいわね」
咲良から告げられた内容に、この間の怜士との会話が真っ先に思い出された。
『下手に煽って、発作でも起きたらシャレにならない』
怜士は自分とのことを咲良に聞かれ、彼女の体調を考慮して当たり障りのない回答をしたということだ。
沙帆は瞬時にそう解釈した。