今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
「沙帆、行こう」
心乱れる沙帆へ、怜士は穏やかな微笑を見せ、奪い返した肩を抱く。
一切取り乱さず沙帆を連れていこうとする怜士に、謙太郎が噛み付くように「待て」と声を上げた。
「沙帆、言っておくけど、お前が熱上げてもコイツは本気にはならないぞ?」
何を根拠にそんなことを言い出したかわからない謙太郎は、「どうせ遊ばれるだけだ」とまで言い切る。
「お前みたいなのに、この男が本気になるわけないだろ」
そんなことわかっている。
沙帆はわざわざ謙太郎に並べられる言葉に耳を塞ぎたい思いだった。
「今言った言葉は、取り消してもらおうか」
そんな中、口を開いたのは怜士だった。
先ほどまで沙帆に向けていた柔和な表情を消し、謙太郎を見据える目は鋭く冷たい。
肩を抱いていた怜士の手が、安心させるように沙帆の背中をそっと撫でた。
「人の婚約者を捕まえて〝お前みたいなの〟は無礼な話だ」