今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
「うん……あのあと電話で、あの日、あのホテルで見かけたこと、話した」
「それで、向こうは⁈」
「何も言い返せなかったよ。はっきりきっぱり、お別れ告げた」
再びハシゴに足をかけ、沙帆は花梨に笑みを見せる。
あの日のボロボロだった沙帆はもういない――とまでは言えないが、大分持ち直している。
少し落ち着いて考えてみれば、一線を超えなくて良かったと思うこともできた。
「こんなこと言ったらなんですけど、あの時わかってよかったんですよ!」
ハシゴを上がっていく沙帆を見上げ、花梨は力強く言い放つ。
「だって、考えてみてください? あの日、あそこに行かなかったら、沙帆先輩は二股かけられたまま、何も知らずにまだその元彼と付き合ってたってことですよね? 私、あの日、沙帆先輩を誘ってよかったって、ほんとそう思ってます!」
「花梨ちゃん……」
自分のことのように怒りを露わにする花梨に、沙帆は胸の奥がジンとする。
花梨は沙帆のそんな想いも知らず、「あー、また腹たってきました!」なんて言いながらガラスにクリーナーを吹きかけた。