今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
「うん……お礼をさせてもらいたかったんだけど、必要ないって言われちゃって」
あの後帰宅してから、やっぱり何かお詫びをしなくてはいけなかったと後悔した。
迫力に負けて追い返されるまま立ち去ってしまったけど、食い下がるべきだったと思う。
ホテルに問い合わせても、滞在者の個人情報なんて教えてもらえるはずもない。
(〝たかとり〟ってホテルのスタッフには呼ばれてたっけ……)
「でもでも、一緒に飛び込んで助けてくれるなんて、かっこよすぎませんか⁉︎」
「うん、そうだね……」
沙帆は埃を吸引しながら、あの時のことを思い返す。
水が滴り落ちる整った横顔。
軽々と沙帆を横抱きをした腕の逞しさと、すらりと高い背。
周囲の視線を独り占めしてしまう独特のオーラは、誰もが持ち合わせているものではなかった。
あんな状況下でありながら、沙帆も彼に意識を奪われた。