今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
(……うっ、うそ――)
目を疑うというのは、こういうことなのだろうか。
沙帆は捕えたその顔に釘付けになり、視線が固定されたようになってしまう。
近付いてくる姿を見れば見るほど間違いはなく、疑いは確信へと変わった。
「――沙帆先輩? おーい、先輩?」
花梨の声にハッと我に帰る。
「どうかしました? 大丈夫ですか?」
「あっ、う、うん……」
小首を傾げる花梨に頷きを見せながらも、沙帆の頭の中はパニック状態だった。
自分の上がったハシゴへと徐々に近づく彼に、再び自然と視線が引き寄せられる。
彼氏の浮気現場に遭遇し、そのショックで意識が朦朧とし、プールへと落下した沙帆を助け出してくれた人――あの、鷹取という彼に間違いない。
しかし、この場所で、あの格好ということは、答えは一つしかない。
(医者……だっていうの?)
凝視していた沙帆の視線に気付いたのか、鷹取が不意にハシゴの上を見るように顔を上げた。