今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
視線が絡み合った瞬間、沙帆の身体の中を電気が駆け巡ったように肩がびくりと震えた。
自分ではどうすることもできない勢いで、鼓動がバクバクと巨大な音を立てていく。
沙帆のそんな状態を知ってか知らずか、鷹取はおもむろに足を止め、共に歩いてきた集団に「先に行ってくれ」と声をかけた。
「こんなところで会うとはな。あの後はどこにも落ちなかったか?」
「なっ……! お、落ちてません!」
両手を首から下げたステートの前で組み、鷹取は飄々と言い放つ。
否定の声を上げた沙帆を、口角を上げて薄っすらと笑った。
足元でハシゴに抱きつくようにしている花梨が、「えっ⁈ えっ⁈」と驚きを隠し切れず動揺している。
「あ、あなた……医者だったの?」
もう会わないだろうと思っていた鷹取と再会したことよりも、彼が医師だということに沙帆は戸惑いを隠せなかった。
問われた鷹取は、沙帆から視線を外しフッと笑う。
そして、また顔を上げて沙帆を見据えた。
「あぁ、あんたの嫌いな医者だったみたいだな」
「なっ――」
その時、ハシゴを降りようと下ろした足がずるりと足裏で滑り、バランスを崩す。
危ないと思った時には身体が宙を舞っていて、直後、後頭部に衝撃が走った。
「沙帆先輩!」
花梨の叫ぶような呼びかけを耳に、沙帆の意識は遠のいていった。