今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
ぎゅっと目を瞑った沙帆の身体が池の中に沈むことはなかった。
恐る恐る閉じた目を開けていく。
すぐ目の前には仕立てのいいブラックスーツの襟と、彼の締めるライトグレーのタイが揺れていて、近すぎるその距離に目を見開いた。
帯の辺りをがっちりと抱かれていて、自分の手はしがみつくように彼の背に回っている。
「お前な……」と頭上から呆れた声が降ってきて、慌てて足に踏ん張りをきかせて体勢を整えた。
大袈裟な動作で距離を取る。
「すみっ、すみません!」
「一体なんなんだ、落ちるのが趣味なのか?」
「そ、そんなわけ!」
怜士がそう言うのも無理はない。
プールに落ち、仕事中のハシゴから落ち、今日は池に落ちそうになっているのだ。
沙帆から腕を解いた怜士は「まぁいい」と話を本題へ戻す。
「見合いの相手がおたくだったのは想定外だったけど、俺もそろそろ身を固めないといけない立場でな」