今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~


勝手に話をまとめようとする怜士を沙帆は慌てて止める。

待ったと言わんばかりの声を上げた沙帆を、怜士は不思議そうに見つめた。


「いいわけない。何考えてるんですか? 私は、そういうつもり――」

「結婚するために今日来たんだろ?」

「それはっ……親に、無理矢理、で……顔は出すけど、話を進めるつもりは……」


お見合いの席にのこのこやって来ておいて、その相手に全くその気がないときっぱり口にする勇気はさすがになかった。

濁すようにごにょごにょ喋る沙帆を、今度は怜士が目を細めて眺める。

切れ長の目に鋭い視線を送られ、沙帆はびくりと肩を震わせた。


「とっ、とにかく、私は医者は嫌なの! 今まで親にも、付き合った人でも、振り回されてきた。結婚してまで、一生振り回されるなんてごめんなの!」


胸の内を吐き出すと、辺りは急にしんと静寂に包まれたようだった。

流れる小川のせせらぎが、妙に大きく存在感を露わにする。


「……わかった」


落ちた沈黙の中、フッと真意のわからない笑みがこぼされた。

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