今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
もし怜士と間違って結婚することにでもなったら、この兄の怒りを買うことがあるかもしれないと、沙帆は真剣に考えてしまう。
そうなったら、完全に修羅場だ。
「ありがとう。でも、今のところ断るつもりで考えてるから、その心配はいらないよ」
「そうか……でも、また母さんがしばらくうるさいんじゃないか?」
「まぁね。いつものことだよ」
鷹取家に嫁いでほしいと願う両親に断ると正式に切り出せば、間違いなく考え直しなさいと言われるに違いない。
「結婚はしたいと思うけど、もう、しばらくお見合いはいいかな……」
沙帆が一番望むことは、想い合える結婚の形だ。
心を置き去りにすれば、これから先、また寂しい思いをすることになる。
それだけは嫌だった。
「焦らなくてもいいと俺は思うよ。何より、可愛い沙帆が結婚したら、ますますお兄ちゃんとの時間を作ってくれなくなりそうだしな」
「お兄ちゃん。もうそのシスコン発言、冗談でもやめたら?」
沙帆はわざと厳しい顔をして、諭すように言ってみせる。
けれどすぐに我慢ならなくなって、吹き出すように笑い始めた。
「こんにゃく、美味しい! もう一つ食べたいかも」
次に両親に会ったら、正式に断りの返事をすると話そう。
兄との気の許せる楽しいひとときを過ごしながら、沙帆は自分の中でそう答えを出していた。