今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
軽い足取りで沙帆の前までやってきた千華子の手には、見覚えのある薄っすらと花柄が入ったハードカバー。
沙帆に見せるようにして開かれたその中には、やはり見覚えのある愛想のいい微笑を浮かべる七三分けの男性が写っていた。
怜士とのお見合いの話をされた日に、千華子が間違えて沙帆に見せていたあのお見合い写真だ。
「こちらはね、産科のドクターなのよ。ご実家は病院ではないけど、優秀な方でね――」
千華子の売り込みが始まり、沙帆の意識はぼんやりと遠ざかっていく。
写真に目を落としながらも焦点は合わず、そこにある顔までぼやけていった。
結婚を決めるまで、こうして永遠にお見合いをさせられるのだろうか。
自分の意志や気持ちは無視で、幸せになれるかなんて保証のない結婚をしろと迫られ続けるのだろうか。
『それなら、とりあえず俺と一緒になることにすればいい』
なぜだかお見合いのときに怜士に言われた言葉が耳の奥で蘇り、ハッと意識が元に戻った。