今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
溜め込んできた想いを口にしていくと、自然と涙が込み上げてくる。
幼い頃から我慢してきた、両親への甘え。
子どもながらに、口にしては負担をかけてしまうと感じていたのだろう。
「沙帆、それは違うわ――」
「何も違わない。だから、私は結婚してまで同じ思いをしたくないし、自分の産んだ子にも寂しい思いはさせたくない。これ以上、お見合いの話なんか聞きたくない!」
「あっ、沙帆――!」
ほとんど一方的に言いたいことをぶち撒け、その勢いでリビングを飛び出していた。
「待ちなさい沙帆」と背後から呼び止める声が聞こえてきたけれど、沙帆は振り返らず玄関へと向かう。
「沙帆、今から出かけるのか?」
履き慣れたスニーカーに足を突っ込んだタイミングで玄関の向こうから良嗣が姿を見せ、代わりに足早に出ていく沙帆を不思議そうに見送っていた。