今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
歩道にはのっていたけれど、驚いて一歩後退する。
左折していった黒塗りの高級車が曲がった先でハザードランプを焚いて停車し、歩道側のドアが開いた。
(え……?)
涙で霞んだ目を凝らすと、近付いてきた人物に沙帆はハッと息を呑んだ。
「どうした、またどっかに落ちたのか」
突如現れた怜士は、沙帆の顔を目にするなりそんなことを問いかける。
泣きっ面のせいでそんなことを聞かれたのかもしれないが、沙帆は黙って横に首を振った。
待っていた信号が青へと変わり、沙帆と共に信号待ちをしていた数人が横断歩道を歩いていく。
「とりあえず乗れ」
湿ったハンカチで目元を押さえているうち、沙帆の背に手が添えられる。
庇うように肩を抱かれると、沙帆は怜士の乗ってきた車へと乗せられた。
包み込むように身体にフィットする革張りのシート腰を下ろして、沙帆は深く息を吐き出す。
程なくして左ハンドルの運転席に怜士が乗り込み、滑らかに車は発進した。