今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
「送っていく。自宅はどのあたりだ」
「……」
「おい、聞いてるのか」
「今は……帰りたくないので」
理由が思い浮かばず、そう言うので精一杯だった。
子どものワガママみたいなことを言ってしまったと、沙帆は後悔と共に俯く。
横から小さなため息が聞こえてきて、余計顔を上げられなくなった。
それからは、怜士が声をかけてくることもなく、沙帆はひたすら濡れたタオルハンカチを持つ自分の手元だけを見ていた。
どこかに向かって車は走り続け、エンジンが切れたことにそろりと視線を上げてみると、そこはどこか建物内の平置き駐車場だった。
黙ったまま怜士が先に車を降り、すぐに沙帆のいる助手席へと回ってくる。
ドアを開け、「降りて」と声がかけた。
「あの……ここは?」
周囲に目を配れば、怜士が乗っているような高級車ばかりが駐車されている。
広い平置き駐車場だったことから、ここが何か建物の地下だというのを知った。
ロックの電子音が響き渡り、怜士はいきなり沙帆の細い手首を掴む。
「行けばわかる」
そう言って、打放しコンクリートの空間をエレベーターに向かって進んでいった。