今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
返事を待っているとばかりに答えを求められ、沙帆は息を呑む。
その話を家でして、今こんなことになっているのだ。
「帰りたくないとか言うあたり、大方また親とその類の話でもめてきたんだろ」
言動と泣いた顔を見て、怜士は沙帆の事情を察したようだ。
ズバリ当てられて沙帆は「それは……」と言葉に詰まる。
早く結婚を決めなさいと親に急かされ、反発して家を飛び出してきた。
結婚をしたくないわけじゃない。
だけど、先の見えない縁談が続いていくことに、正直心が疲れ切っていた。
『とりあえず俺と一緒になることにすればいい』
『そうすれば、その間はご両親も静かだろう。どこかの医者たちとまたお見合いをさせられることも一旦はなくなる』
この間、怜士に言われたことが脳裏に浮かぶ。
夜景をバックにじっと外を眺める洗練された姿を目にしながら、沙帆は迷いなく静かに口を開いた。
「……この間の話、乗っかることにします」
自分でも驚くほど自然にそう口にしていた。
ゆったりと振り向いた怜士が、口元に薄っすらと笑みを浮かべる。
「へぇ……意外だな。そんな返事が返ってくるとは」