今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
沙帆へと向ける怜士の微笑は、どこか挑戦でもある。
それでいてやっぱり綺麗で、沙帆は返す言葉を忘れてじっと吸い込まれるように見つめてしまっていた。
「そうと決まれば話は早い。近いうちにご両親に挨拶に伺う」
「えっ……」
「お互い、他の縁談の話を進められても面倒だからな。その必要がないことをアピールしておかないとダメだろ」
淡々と話を進めていく怜士に、沙帆は承諾をしておきながらついていけない。
一時の感情で返事をしてしまった気もするけれど、本当にこれでよかったのだろうか。
「わかり、ました……」
早くも不安が胸に広がり始めていたけれど、それを今更口に出すことはできない。
「どうした? 言ったそばから後悔でもしてるのか」
ぼんやりと床の一点を見つめている沙帆へと、不意に怜士が手を伸ばす。
その長い指は沙帆の髪へと触れ、耳を隠す髪をかき上げていく。
触れられたことで沙帆はびくりと肩を揺らし、迫る怜士を反射的に見上げた。
「悪いようにはしない……お互いに気持ちのいい結婚をしようってだけだ」