今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~
お互いに気持ちのいい結婚。
怜士のその言葉は、沙帆の耳に意味深に響いた。
薄い唇にわずかにのった笑みが、怜士の端正な顔を意地悪く輝かせる。
「これからよろしくな、沙帆」
「……っ」
髪を撫でていた手が首裏へと回り、ぐいと引き寄せられる。
なんの予告もなしに傾げた怜士の顔が迫って、沙帆の唇へと重なり合っていた。
一瞬にして頭の中が真っ白に塗り潰される。
沙帆の唇を塞いだ怜士は、楽しむようにキスを深める。
それに驚いたように沙帆が吐息を漏らし、怜士はクスッと笑って唇を解放した。
ハッと我に返り、沙帆は目前にある怜士の胸元を押してその腕から逃れる。
「なっ、何するの……⁉︎」
紅潮した顔で文句を言う沙帆を、怜士は鼻でフンと笑う。
「それで怒ってるつもりか? 顔が真っ赤だぞ」
「あ、当たり前です! 急にこんな……」
指摘されると余計に全身の熱が上がる。
その場にいることが居たたまれなくなって、沙帆は「帰ります!」と逃げるようにしてその場を駆け出した。
そんな調子の沙帆を目に、怜士はまたフッと笑みをこぼす。
「これは、楽しい新婚生活を送れそうだな」
その呟きを沙帆が耳にすることはなかった。