総長さんが甘やかしてくる①(※イラストあり)
あの男は、表向きは“いい子”だった。
おばさんの言いつけをきちんと守り
おばさんの前ではわたしに近づいてきたり、声をかけたりしてこなかった。
ところが、おばさんのいない時間は
わたしに話しかけてきた。
そのほとんどが、
【ゼッケン縫っとけ】
そんな用事を一方的に押し付けられるだけで、会話と言えるほどのものではなかったけれど。
また、その男は
おばさんの留守を狙っては家に女の子を呼んでいた。
頻繁に。それも、毎回違う女の子を。
女の子の腰に手を回して歩いていたり、送りの車に乗せるときにキスしているところを見かけたことがある。
今思えば、恋人同士でやるようなことを、色んな女の子とやっていたのだろう。
一方、あの男の弟は
そんな兄とは違い、とても大人しい子だった。
わたしに意地悪をするわけでもないけれど、守ってもくれない。
おばさんの顔色ばかり気にしていて、臆病で、わたしの名前を呼んだこともない。
その点、兄の方は
【ほんと夕烏はとろいな】
ときどきだけど、わたしの名前を呼んだ。
主にバカにするときに。
おばさんと、その息子二人は
――今頃、どうしているだろう。
わたしがいなければ朝食の準備はおろか、掃除も洗濯も、夕食の準備もしていないんじゃないかな。
勝手に出ていったことに気づいて、腹を立てているかもしれない。
わたしが、というよりは
家政婦がいなくて困っていると思う。
少なくとも新しい家政婦を雇うまでは洗濯物もたまるし、アイロンがけもお風呂掃除も自分たちでやらなきゃならない。