イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
エレオノーラには、三人の兄がいる。彼女は、メイスフィール公爵にとって初めてできた愛娘だ。蝶よ花よと育てられたが、彼女自身は幼い頃から独立心が強く、女性としては残念なことに頭がよかった。地位に甘んじてろくに勉強もせずにのらりくらりと暮らしている兄たちの代わりに、どれほど自分が家を盛り立てる礎となりたかったことか。

 けれど、キリリシアでは、女性が家の当主となることはできない。

「でも、勉強することをあきらめなかったのね。えらいわ、エレオノーラ」

 アディが笑顔を浮かべて言うと、エレオノーラがむにっとアディの両方の頬をつまんだ。

「ナマイキですわ、アデライード。早く部屋にもどってその飾りにモーツ時代を詰め込みなさい」

「いたいいたいエレオノーラ」

 エレオノーラの手から離れると、アディは山ほどの課題を手に立ち上がった。

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