イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
そうして手を取って、二人は月明かりの庭で静かにステップを踏み始めた。その足さばきに、アディは目を丸くする。

「驚いた。あなた、とてもうまいのね」

「そう? 君の足を踏まないように必死だよ?」

「とてもそうは思えないわ。私があなたの足を踏む方が早そう」

 青年のリードで、アディのステップは先ほどとはまったく違う軽やかさで草の上を滑っていく。あれほど苦労したターンも、青年に支えられてまるで羽根のようにふわりと回ることができた。

「アディこそ、とても上手だね。まるで天使と踊っているようだ」

 青年は嬉しそうににこにこと笑っている。その顔を、アディは不思議そうに見上げた。

「ねえ、以前にも私、あなたに会ったことがあるかしら?」

 すると、青年は目を丸くして言った。

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