イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
ぐ、と手を握りしめて怒りを堪えるアディに気づかずに、ルースは、空の月を仰ぎ見ながら笑みすら浮かべて言った。

「誰も彼のことを見ることもなくいないものとして扱うのなら、いっそのこと王太子などさっさと死んでしまえば……」

「ふざけないでください!」

 ふいに声を荒げたアディに、ルースは驚いて口を閉ざした。アディは、それ以上はもう我慢できなかった。

「あなたは、いったい何をしているのですか?!」

「私が……なんですか?」

「あなたは、殿下に一番の信頼を置かれているのではなかったのですか? なのになぜ、そのあなたが彼の幸せを願わないのです?! あなただけは……」

 アディは、両脇に下ろした拳が震えるほど握りしめた。その様子を、ルースは目を丸くして見ている。
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