イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
「なんてね。実は一休みしてたところ。アディは?」

「私も、休憩。もう、歴代の王様の名前で頭がぱんぱんなの。ところで、私、まだあなたの名前を聞いていないわ」

 くるり、と青年は目を丸くした。それから首をひねって少し考えると、なぜか視線をさまよわせながら頼りない声で言った。

「僕は……フィル」

「フィル。あなたは一体」

「その飛び石ね、建築家のネイウスの作品なんだって。あっちにもあるよ、見に行ってみる?」

 アディの言葉を遮って、フィルは木立の方を指さした。

 昨日会った時も自己紹介ははぐらかされた。どうやら、自分のことを知られたくはないらしい。

 上流階級の貴族の中には、自分の身元を明確にしたくないものも多い。おそらく彼もそんな貴族のうちの一人なのだろう。
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