イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
「不安ですか」

 アディの様子を怯えと勘違いしたのか、ルースが珍しく優しい声で言った。

「いえ……王太子殿下は、今頃何を思って過ごされているのだろうと……」

「殿下が?」

「信じられる人間はそう多くはないと聞きました。だからもしも私が殿下の……いいえ、私でなくてもかまいません。誰かが王太子妃となって、殿下の心を支えられたら……」

 ぽつりぽつりと話すアディを、ルースは黙って見下ろしている。

「楽しい時には一緒に笑い、疲れた時には心を緩め、悲しい時には共に泣く……そんな方が殿下のお側にいたらいいなと……」

「王にはそのようなものは必要ありません」

 自身の言葉を否定する冷たい声に、アディは顔を上げた。
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