イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
自分にはない香りと抱きしめられた腕や胸の硬さに、目の前にいるのが執事である前に一人の男である事を、アディははっきりと思い知らされた。

「覚えておけ」

「……え?」

「これが、俺の匂いだ」

 意地悪な声でも、面白がっている声でもない。どこか切羽詰まったようなルースの声に、アディは返す言葉がなかった。

  ☆

 やがてゆっくりと体を離すと、ルースはアディの指に自分のそれを絡めた。そうして離宮へ向かって歩き始めたルースに、引っ張られるようにしてアディはついて行く。

 お互い何も言わなかった。

 ふわふわとした沈黙に包まれながら、アディは目の前の高い背中を見上げる。

< 173 / 302 >

この作品をシェア

pagetop