イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
まだ、心臓がどきどきしていた。うまく息もできないけれど、決してそれは嫌な気持ちではなかった。

 ルースの表情が見えないのが怖くもあり、けれど見えないことで安堵もする。今は、彼から冷たい言葉を聞きたくなかった。絞り出すような熱のこもった声音だけを覚えておきたかった。
 けれど、なぜそんな風に自分が思うのか、アディにはまだわからなかった。

 ただ一つ気になることは。

 ルースは、今、何を思っているのだろう。

 二人が離宮へ近づくと、中から一人の女性が出てくるのが見えた。なにやらあちこちに視線をさまよわせている様子に気づいて、ルースが声をかける。

「どうしたのですか、マルセラ」

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