イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
「ああ、ルース」

 彼女はルースを見つけると、ほっとしたように近づいてきた。

 アディは、あわててルースから指を離す。ルースは、ちらりと視線をよこしただけで何も言わなかった。

「フィルを見かけなかった? どこにもいないのよ」

 年配の女性だった。服装からして、女官らしい。

「先ほどあちらのガゼボにいましたので、さっさと戻るように言いました」

 それを聞くと、女性は安堵したようにため息をついた。

「そう。よかったこと。まったくあの子は……」

 なにか言いかけて、彼女はちらりとアディを見る。それに気づいて、ルースが言った。

「モントクローゼス伯爵令嬢、アデライード様です」

 はっと、その女性は顔を引きしめると、膝を折って礼の形をとった。アディがどういう立場なのか、瞬時に理解したようだ。
< 175 / 302 >

この作品をシェア

pagetop