イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
アディが聞くと、クレムは少しだけ眉をひそめた。

「あまりよくはないらしい。兄上はなにも言わないけれど、こっちに配置換えになるのも、ひそかに王宮の人事を一新し始めたからなんじゃないかな」

 クレムがあいまいに口にしたのは、現在のキリリシア王国一番の関心事だ。

 病弱の王太子には兄弟がいない。もし王太子に何かあれば、次はそのいとこが王太子としてたつことになる。

 王太子が国王の実子ではなくその甥に代わるとなれば、王宮の勢力も大きく動く。王宮どころか、キリリシア王国全体が大騒ぎになるだろう。

 表だって話題にできることでもないので、クレムもそれ以上はその話を打ち切って、手元の袋に視線を戻した。

「これ、兄上の好物なんだよ。王宮ではいろいろ苦労しているだろうし、今日も誰か一緒に来るっていうから、用意しておいてやろうと思って」

 照れくさそうに言った少年の笑顔につられて、アディも微笑む。
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