イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
家の使用人に言えばビスコティくらい買ってきてくれるだろうが、クレムの性格上、兄のためにとは言いづらかったのだろう。それでも兄にビスコティを食べさせたくて、一人でこっそりと買いに来たに違いない。

 素直じゃないんだから、とアディは心の中でだけ言った。

「きっとそのお客様も喜ぶわ」

 ちらりとアディを見たクレムは、がさがさと紙袋からビスコティを二つ取り出した。

「やるよ。一応助けてくれた礼だ」

 アディは、目を丸くする。

「いいわよ。お兄様のでしょ?」

「たくさん買ったから。どうせお前みたいな庶民は、こんな高価な菓子、食ったことないだろう?」

 う、とアディが顔を引きつらせる。そのビスコティは、アディにとっても好物のお菓子だ。一部クレムの言ったことに異論はあるが、めったに食べられないことは否定できない。

 ぐい、とクレムはそれをアディに押し付けた。
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