イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
ようやく何が起こったのかを悟ったアディの本を持つ腕が、かたかたと小さく震える。

「な、んで……」

 矢は、アディの耳元をかすめていた。ほとんど勢いもなく落ちてきたことを考えても、その矢が刺さったからと言って死ぬ可能性は少なかっただろう。だが、その矢尻に毒でもぬってあったら話は別だ。あとほんの少しずれていたら、アディはその矢を受けていたかもしれない。

 閉められた窓のガラスは厚く、使われた矢で貫通することはできない。

「衛兵が塔へ向かったから心配しなくていいよ」

 安心させるようにフィルが言った。ルースは、かたまったままのアディの腕から、そっと本をとりあげる。

「もう大丈夫です」
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