イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
ポーレットはいつも笑顔を絶やさない。けれど、その笑顔の中には、どんな感情が含まれているのだろう。

 アディの目の前で、ポーレットは笑んだまま、またカップを手に取った。

  ☆

 その夜。

 アディは、なかなか寝付けずにいた。エレオノーラを迎えに来たブライアン。誰かを想うポーレット。

 二人とも、アディが初めて見る女の顔をしていた。

 アディは、まだ自分が恋も知らないことを初めて残念に思った。

 自分が貴族の令嬢であるがゆえに、いつか自分が結婚するならそれは家同士の政略結婚であるだろうということを前提にアディは生きてきた。だから、人を好きになるという当たり前の感情を実は自分も持てるという事を、今まで考えてこなかったように思う。ましてや、今の自分は王太子妃となるためにここにいるのだ。自分が恋をするなら、それは王太子殿下に他ならない。
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