イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
それならそれで、アディが口を出すことじゃない。これでポーレットが王太子妃となっても、アディは悔しいとは思わないだろう。

 むしろこのままここにいては、聞こえてはいけない何かが聞こえてくるかもしれない。その方がまずい気がする。

 踵を返そうとしたアディの耳に、突然、闇を引き裂いてポーレットの悲鳴が聞こえた。

 ただならぬその声音に、アディはあわてて部屋に駆け寄るとためらわずにテオフィルスの部屋の扉をあける。

「ポーレット!」

 ポーレットのことで頭がいっぱいになっていたアディは、いつもならそこここにいるはずの衛兵が一人もいないことに気づいていなかった。
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