イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
「あら、クレム、お迎えよ」
 アディが言うと、クレムは握っていたアディの手を離して思い切り眉をしかめる。名残惜しそうにアディから離れると、さりげなく紙袋を背中に隠した。

「クレメント様! そのお顔は!」
 アディと一緒に立ち上がったクレムは、悲鳴をあげた執事から、あわてて赤くなった頬を背けた。

「なんでもない」
「ご用がありましたら、私に申し付けて下さればようございましたのに。一体、どうなされたのですか?」
「……まあ、ちょっと」
 それ以上は聞かずに、執事はにこりと笑った。

「向こうに馬車を待たせてあります。さあ、帰りましょう」

「じゃあね、クレム。その顔、早く冷やした方がいいわよ」

 これ幸いとアディも手を振る。そのアディに、ぐいとクレムはビスコティを押し付けた。
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