イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
「私の主となられる方に、大変失礼をしました」

 アディは、起き上ってルースが離した自分の両手を、ぎゅ、と胸の前で握りこむ。だめと言ったのは自分なのに、どうして離された手を、こんなに寂しいと思ってしまうのだろう。

「私……私が、王太子妃となってもいいのですか?」

 なぜか落ち着かない気持ちで、アディは聞いた。

「それが、あなたの望みでしょう?」

 ベッドの脇に立つルースは、先ほどまでの激情は露ほども残さずに静かにたたずんでいる。
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