イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
「何度かあなたを見に行きました。街の方々と仲がいいのですね。いつでも笑顔でくるくるとよく動いて……どれだけ見ていても飽きることがありませんでした。伯爵家の事情と街での評判をあわせて、あなたの疑いもすぐに晴れました」

 ただの出稼ぎのつもりだったのに、実は王太子暗殺の容疑をかけられていたことを、初めてアディは知った。

「誰かを妻として隣に置いておくのなら、人形のようにつまらない女よりも、あなたみたいに次に何をやらかすかわからない女の方が面白いではないですか」

「そ、そんな理由で私を王太子妃の候補に選んだのですか?」

 おてんばな所業の数々を見られてただけでも恥ずかしいのに、それが理由と言われればアディは心中複雑にならざるを得ない。

「十分な理由です。それに」

 ふ、とルースの瞳の色が柔らかくなった。
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