イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
「アデライード」

 ルースはアディから離れてひざまずき、その手を取った。

「私が選んだ花嫁は、最初からあなただけです。これから先も、あなたの他に妃を迎えるつもりはありません。どうか、私と結婚してください」

 想い続けることは、もうできないと思っていた。諦めるつもりだった。けれど、これからも彼を愛し続けることを許された喜びに、ぎゅ、とアディの胸が痛くなる。
 うっかり口を開けたら涙も出てきそうな気がして、アディが言葉を詰まらせた。

 短い沈黙が二人の間に落ちる。すると、返事が返ってこないことにルースがむっとした表情になった。
 
「俺にこれだけのことを言わせたんだ。まさか、嫌とは言わないよな」

 口調を変えて、ルースは立ち上がった。
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