溺愛誓約〜意地悪なカレの愛し方〜
「店長ー!」

「おー、すぐ戻るー!」


調理場の方からスタッフの声が飛んできて、元康はすぐさま立ち上がった。
そのまま戻ろうとしていたらしい背中が止まり、クルッと振り返る。


「いい加減、青山さんを連れてこいよ。お前がずっと片想いしてたことを、親友としてしっかり伝えてやるから」

「断る」

「つれないなぁ。まぁせいぜい頑張れよ、未来の社長! 待ち人が来たらここに通してやるから、とりあえずゆっくりして行け」


楽しげな笑顔で言い置いた元康が、再び背中を向けて手を上げる。
俺が「あぁ」とだけ答えると、元康は調理場の方へ戻っていった。


(やっぱり、莉緒とのことは元康に話さない方がよかったか)


莉緒のことは、上司としてずっと気にかけていた。
彼女は要領がいい方ではなかったが、忙しい時に業務を頼んでも嫌な顔ひとつすることなく請け負い、仕事はいつだって一生懸命こなしていた。


誰にでも分け隔てなく接するところは見ていて好感を持ったし、同僚たちからの受けがいいこともわかっていた。
ただ、本人は恋愛からは遠ざかっているようで、浮いた話は聞いたことがなかった。

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