極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜
次に口を動かす前にエレベーターのドアが開き、篠原が眉を寄せたまま私の手を掴んだ。
言いたいことはまだまだあるのに言葉にならなくて、手をがっちりと掴まれているから縺れそうになる足で広い背中を追いかけることしかできない。


彼はカードキーで部屋のロックを解除すると、性急に私ごと体をドアの向こうへと滑り込ませた。


「……随分な言いようだな」


その直後にダンッと音が鳴ったかと思うと、壁に背中を押しつけられていて──。

「偉そうなことばっかり言うんじゃねぇよ」

突然の衝撃に思わず閉じてしまった目を開けると、篠原の顔がすぐ目の前にあった。


「生意気なんだよ」


低くゆっくりと零された不満に、視線を落とす。
言い過ぎたことはわかっているけれど、今日だけは謝罪を紡ぎたくはない。


そんな気持ちから唇をギュッと閉じていると、彼の顔がさらに近くなった。


「……雛子のくせに」


焦燥と嫉妬に独占されていたはずの心が、篠原に名前を呼ばれただけで小さく弾む。
安上がりな自分が嫌でさらに苛立ち、頭に浮かぶのは彼を罵る言葉ばかり。


だけど──。

「勝手に俺の視界から消えるなよ」

不機嫌に呟いて私の唇を塞いだ篠原に、抱いた感情たちを言葉にすることを遮られた。

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