極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜【コミカライズ配信中】
やめて、と言いたいのに。
放して、と訴えたいのに。
簡単に私の舌を捕らえた篠原に、それを口に出すことは許されなくなる。


パーティー会場でのことが忘れられなくて、ムカついて堪らない。


それなのに──。

「しかも、勝手に男と喋るなよ」

彼が紡いだ言葉の意図に気づいて、負の感情が僅かに和らいだ。


「なんであんなに仲良さげなんだよ」


どんな見方をすれば、仲良くしていたように見えるのだろう。
その答えを聞いてもきっと理解し難いだろうと思いつつ、見せられている苛立ちの原因にようやく辿り着けたような気がした。


「元カレだろ、あいつ」

「どうしてそんなこと……」

「あの雰囲気を見ればわかる。わからないのは、きっとお前級に鈍い奴だけだろ」


なんとも失礼な言い草にムカッとしたけれど、ため息とともに飲み込む。


「一応言っておきますけど、まったく仲良さげな雰囲気じゃありませんでしたよ」

「そういう問題じゃない」


だったら、どういう問題なのだろうか。


篠原の担当者になってからも、そして恋人になってからも、それなりの月日が流れたけれど──。

「なんなんだよ、お前は」

未だに彼のことはよくわからなくて、吐き出された言葉をそのまま返したくなった。

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