極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜
好き……。


心の中ではこんなにも簡単に言えるのに、篠原の耳に届かせる方法を知っているのに。
どんな顔をすればいいのかわからないし、それ以前にあまりにも恥ずかしくて。
まるで懇願にも似た彼の表情を目にしながらも、強情な唇は動かない。


篠原と付き合って、一年と少し。
その間に色々とあったし、相変わらず暴君な彼に振り回されてはいるものの、それなりに上手くいっていると思うけれど……。私たちは付き合い始めた日以降、どちらも自分の気持ちを言葉にしていない。


しかも、私に至っては、【失恋ショコラ】に対して“好き”と言ったことになっている。


「言えよ、この唇で」


親指で私の唇に触れた篠原は、いつになく真剣な表情をしている。
だから、今日こそちゃんと伝えるべきなのだと覚悟を決めようとしたけれど、一年以上もかけてできなかったことをすんなりと実行できるわけがない。


「先生だって言ってくれないじゃないですか。好き、なんて……」


そんな気持ちから告げれば、彼が眉を小さく寄せた。
休憩を与えられたおかげで息が整い、はっきりと言葉を紡ぐことができる。


「本当は私みたいな女なんかより、セリナさんみたいな女性の方がいいんじゃないですか?」


それをいいことに、またしても悪態が出た。

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