極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜【コミカライズ配信中】
発売日の前日に雛子に献本を渡した時、彼女の表情はようやくご褒美をもらえた子どものようにキラキラと輝き、その頃には滅多に見られなかった笑顔を向けてくれた。


直後に胸がひどく掴まれて苦しくなったことは、きっと一生俺の心の中だけに留めておくだろう。
そして、初めて会ったあの日のような表情を見ることができてとても嬉しかったことも、決して口にする気はない。


ただ、翌日うちにやってきた雛子はとてつもなく不機嫌な顔をしていて、彼女の口からどこかのテンプレのような感想を聞かされたあとには、バカみたいに傷ついていた。


勝手にモデルにされて、自身の失恋をバラされて、ふたりの情事を描かれて。
そんな雛子の態度は当たり前のものだったのに、彼女が泣きそうな顔で【失恋ショコラ】を『嫌い』と言った時、返せる言葉なんてなかった。


傷つけたかったわけじゃない。
あんな顔をさせたかったわけじゃない。


だけど、俺に向けられた表情は雛子が傷ついたことを言葉よりも雄弁に語っていて、自身の行為が浅はかだったことを思い知った。


それなのに、【失恋ショコラ】を書いたことへの後悔が微塵も芽生えてこなかったのは、それだけ作品への自信と愛情があったから。
それほどまでに愛おしい作品になったのは、もちろん彼女のことをモデルにしていたからだ。

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