極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜【コミカライズ配信中】
雛子に作品を貶されたのは初めてのことで、それが本心であっても嘘であっても、時間が経てば経つほどひどく落ち込んだ。
自分自身にそんな資格はないとわかっているけれど、彼女の言葉ひとつで心が揺れたのは事実。


万人受けする作品なんてありえないから、SNSに溢れるアンチの誹謗中傷や、どこの誰かもわからない評論家の侮辱にも特に傷ついたことはない。
それを目にしてスランプに陥ったことはあるけれど、そういう時は浮上するのも早かった。


だけど、雛子の唇から『嫌い』と紡がれた時は、もう一生なにも書けないかもしれない、と一瞬だけ脳裏に過った。


もちろん一過性のものだというのはすぐにわかったし、現にスランプと言えるほどの状態に見舞われたわけでもなかったけれど……。彼女の言葉はなによりも深く胸の奥に突き刺さり、執筆中だった新作への意欲を失いかけていた。


【失恋ショコラ】を書いていた時の、あの溢れ過ぎるほどの言葉や情景は頭の中から消え去り、速筆だった日々が嘘のように文章が書けなくなった日もあった。
たぶん、そのことは雛子は知らないだろうけれど、思っているよりもずっと彼女のことを好きだと改めて自覚したのも、この頃だった。


同時に、雛子のことを想うのならばもう彼女から離れるべきなのかもしれない、と考え始めていた──。

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