旦那様は溺愛至上主義~一途な御曹司に愛でられてます~
「……んっ」

 香澄の声が鼻から抜けた。その甘ったるい声に、ぞくりと背筋に快感が走る。

 ちょっとだけと思っていたのに、このままでは止められなくなってしまう。

 余裕のない姿を見られたくなくて、誤魔化すように笑った。

 力が抜けた香澄の腰を抱き寄せ、わざと耳元で囁く。

「続きはホテルに着いてからだな」

「もうっ!」

 香澄は俺と違って誤魔化すのが下手だ。感情がもろに出た顔で不安を露わにする。

 この不服そうな顔は、人前で堂々とキスをする俺に怒っているのか。それとも、中途半端に煽ったことに不満を抱いているのか。

 後者であって欲しいと思いながら、彼女に触れ足りない俺は小さな頭を優しく撫でた。


 しかし、口ではあんなことを言っていたのに、この日を迎えるために連日過酷な業務をこなしていた身体は限界だったようで。

 目を覚ました直後は、状況が掴めずしばらく放心していた。どうやら、先にシャワーを浴び、香澄が出てくるのをベッドで待っているうちに寝てしまったらしい。

 隣ですやすやと可愛らしい寝息を立てる姿を目にした瞬間、後悔とショックと情けなさで、呆然としてしばらく動けなかった。

 嘘だろ……。今、何時だ?
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