旦那様は溺愛至上主義~一途な御曹司に愛でられてます~
「少しずつ飲んで」

 俺の言葉に神妙に頷いて、香澄はほんの少しだけ口に含む。

「わっ! 濃い! でも甘くて美味しい」

 花が咲いたように笑う香澄につい見惚れてしまう。

 俺の視線の意図を勘違いした香澄が、「ちょっとしか飲んでないですよ?」と困り顔を作った。

 他人の顔色ばかりを窺うのは昔からなのだろうか。

 両親を亡くす前はもっと社交的だったと聞いた。

 俺なんかがおこがましいかもしれないが、彼女の本来の性格を取り戻してあげたいと思っている。だが、今のところ理想には程遠い。

「説明不足だった。悪酔いしそうだから、様子を見ながら少しずつ飲んでって意味。美味しいならもっと飲んでいいから」

 俺の説明を聞くと、香澄は嬉しそうに微笑む。

 香澄はとにかく素直だ。最近では俺以外の人間にも歩み寄ろうと努力をしているので、今まで隠されていた香澄の内面の良さが存分に漏れ出てしまっている。

 香澄の希望で社内では交際していることを秘密にしているので、なにも知らない男どもが彼女に一生懸命アプローチしているのを目撃すると、嫉妬で気が狂いそうになることも多々ある。

 香澄がワインを堪能している横で物思いに耽っていると、「あ、すみません!」と香澄が声を上げた。
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