旦那様は溺愛至上主義~一途な御曹司に愛でられてます~
亡くなった母とどこか雰囲気が似ている。もちろん顔は全く似ていないけれど。
そう思った途端、目の奥が熱くなった。
やだやだ。こんな大事な時に感慨深くなっている場合じゃない。
小さな震える吐息をこぼしたところで、宝来部長が小さく笑った。
「これでは当人同士が置いてけぼりですね。香澄さんとふたりきりで話がしたいのですが、よろしいでしょうか」
まさかのふたりきり発言に激しく動揺したものの、彼の本心を聞くチャンスでもある。
「私も成暁さんとお話がしたいです」
明らかに緊張していると分かる、掠れた声が出てしまった。
ああ……もうっ恥ずかしい。でも、成暁さんだなんて、普通の顔で呼べるわけがない。
宝来部長は立ち上がると私のところまでやってきて、顔を熱くさせた私に手を差し出してくれた。
「少し中庭を歩きましょう」
黙って頷き、広く大きい手に触れる。彼はしっかりと手を握り直した後、歩きにくそうにする私の足元に気を使いながら中庭へと連れ出してくれた。