ずっと前から好きだから
先輩たちの言葉を遮って匠が発した言葉はとんでもないセリフで。



「……っ」



いつの間にか、すごく近くにある匠の顔にドキドキしないわけがなかった。



「じっとしてろ」



ぎゅっとあたしを抱きしめて、耳元でそっと囁いた次の瞬間。
チュッと軽く音がして、あたしたちの唇は簡単に重なった。

ボボボっと自分の顔が赤くなっていくのがわかる。



「こいつ、恥ずかしがりやなんでこの辺で勘弁してくださいね」



恥ずかしくて、ドキドキして。
心臓がどうにかなってしまうんじゃないかというくらい波打っていて。

そんなあたしを知ってか知らずが、先輩にそう言ったあと、あたしの手をぎゅっと握って、2人の横を通り過ぎていった。



「夏実?」


「ん」


「怒ってる?」


「……っ」



あたしは怒っているのだろうか。
怒っているから、匠の顔も見たくないのだろうか。
だって、どんな顔したらいいかなんてわからない。

キスのあと、どう振舞ったらいいかなんてわからない。
だって、あたしにとってはこれがファーストキスだから。

< 48 / 192 >

この作品をシェア

pagetop