Adagio
(そういえば、坂巻さんも佐倉さんも、新井さんから声を掛けられて総務部に来た人たちだ)

 二人は新井から選ばれた、仕事が出来て当然の、エリート社員なのだ。そこに入る隙などあるはずがない。

(せめて、わたしも何か坂巻さんの仕事のお手伝いができたら)
 考えてはみたものの、専門的な技術も何も分からない。

 PCやプリンターの故障やエラーなど、些細なことで相談するのをやめるのが、今できる唯一のことなのかもしれなかったが、そうすると本当に坂巻との接点をなくしてしまう。有紗エレベーターの中でしばし考え込んでしまった。

 人事部に戻ってデスクの上に箱を下ろした途端、早速宇美が書類をあさりにきた。

「ありがとね。そういや綿貫、今度システム課に新しく三人来るから、情報登録お願いできる? 急ぎでID作らなきゃいけないんだよね。カードの準備と権限登録も済ませておきたいから」
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