perverse
宙さんの手にあるスマホに表示する名前は【藤井悠希】
これは脅しじゃなくて本気
この人達にはそれぐらいの気持ちじゃないと戦えないってことか
薄々と感じていたけど、宙さんの態度で核心に至る
宙さんはスマホの【発信】をタップし耳に当てる
その姿が本当だとわかると、二人は慌てて電話を止めさせた
二人の慌てている姿を見てニヤッて意地悪な笑みを私に見せる
【このゲームは勝てる】
私に送るアイコンタクトは、そう言っているように見えた
宙さんの行動にうろたえる両親に対して
『娘も含めて貴方方がまずする事は被害者に対して謝罪することだろう?』
声を荒げている
宙さんの叫びは両親に通じたらしく二人は「申し訳なかった」と頭を下げたけど、私の中ではモヤモヤしていて受け入れる気持ちなんて1ミリ足りともない
それぐらい彼らから気持ちが伝わってこない
そして頭を下げた理由が私への謝罪ではなくて、取引銀行のお偉いさんである義兄の父にこの件を知られたくない魂胆がみえみえで腑に落ちない
父親がもう一度封筒を差し出し
「これでお願いしたい。足りなければ言ってくれれば増額する」
やはりお金ですか?
封筒の厚さからすると、およそ100万円
この金額で許したあげる?
こんな金額ぐらいのお金、余裕で持っている
あったら有りがたいとは思うけど、この人達から受け取りたいとは思わない
私ってこの人達にナメられている
『これでいいの?』
自分に問いかける
例えお金を受け取ったとしても、私に対する真寛さんの態度も変わらないし暴力だってこの先奮われる可能性もある
なぜ両親は私の怪我のことよりも悠希さんの父親の方を気にしているのだろう
私も年に一回、甥の誕生会でしか会わない姉の義父の職業とか役職とか関心がなかったし、全く知らなかったのが現状
でもこの人達は私と親戚関係だったという事を知っている
たぶん被害者である私の身辺調査をして、この事を知り慌てて来たのだろう
銀行は晴れている時に傘を差し出し、大雨の時にその傘を取り上げるなんていう話を聞いた事がある
もしかして父親の会社は・・・
一つの仮説が浮き上がる
もし、そうであればこのカードは私の切り札になる!
この人達はお金で私を丸め込もうとしている
こんな小娘の私なんか容易いと思っているはず
私は足掻きたかった
失敗しても
悪い結果になっても
目の前にある選択肢を自分で選びたかった
結果がどうなっても、宙さんと結婚できなくなっても全て結果を受け入れる
後悔なんてしないし、もう引きずったりしない
だから・・・
今回こそ私の幸せは自分で掴みたい!
そう覚悟を決め、深呼吸をする
宙さんと繋がれていた左手をギュッと力を込めて握り返し離した
ここからは自己責任
< 287 / 294 >

この作品をシェア

pagetop