perverse
父親は話が終わったとでも思ったのだろうか?
腰を少し上げ立ち上がろうとしている
「この件に関しては検討させてもらう。ただ被害届けはできるだけ早く取下げてもらいたい」
そう言い父親は腕時計を見ながら立ち去って行ってしまった
その父親を慌てて追いかける母親の姿が滑稽に見える
私達は一瞬何が起こったのかわからず顔を見合わすだけ・・・
言葉はない
普通どんな理由であれ、第三者の私に娘の離婚を促されるなんて言語道断で怒ると思っていたのに、このあっさりしたタンパクな態度の父親に違和感を覚える
「真寛さんのお父さんの会社ってどこですか?」
宙さんの口から聞いた会社名は私も名前は知っている
私が小学生の時は有名俳優を使ったCMがテレビに流れていたから
二人が帰った後、宙さんはきつく私を抱きしめた
悲しい顔をしながら
「私は幸せになれますよね?」
宙さんは何も答えない
何度も促したけど、寂しい表情で笑うだけ
私は間違っていたのだろうか?
私は自分の幸せを純粋に望んだだけ
私は後悔しないし宙さんに言い訳もしない・・・
全て自分で決めた事
もうこれ以上、真寛さんに私の人生を邪魔して欲しくなかったのは本心だから
今度こそ目の前にある幸せを逃すことなく、確実に自分のこの手で掴み取りたい
こんな気の強い私は嫌いですか?
宙さんならきっと理解してくれると思ったのに
私の思い過ごしだったのかもしれない

真寛さんの父親から連絡があったのは、それから二日後だった
「娘は離婚に了承した」
父親は私に一言そう告げる
今まであんなに真寛さんが渋っていたのは何だったんだろう?
と思えるぐらいあっさりしたものだった
全ての手続きが終わり、私は真寛さんの代理人の人と被害届けを取下げに行き全てが完了
私と父親が会ってから1週間後の事
仕事が速い

私は宙さんのマンションに行く
彼から話があると言われていたから
その時の私は、真寛さんとの全てが終わったから結婚式の話をするものだと思っていた
マンションの部屋に入ると、当直明けの宙さんが疲れた顔で私を出迎える
いつもは並んでソファーに座るのに、今日は向かい合って座る
張り詰めた空気が二人の間に流れている
私は宙さんに全ての手続きが完了したことを報告
宙さんは話を聞いた後、溜息をつき口を開いた

「翔とヨリを戻していいよ・・・俺、身を引くから・・・」
< 289 / 294 >

この作品をシェア

pagetop