breath
私の視線はずっと雑炊に向いている……でも手が動かない

専務は私の気持ちとは裏腹に、美味しそうにハンバーグを頬張っている

チラッて専務の方を見ると、視線が合った

「食べないの?」
「ーーー食欲が湧かなくて……」

専務はニヤって笑い

「食べれないんだったら、明日から仕事を休め。倒れられたら、迷惑だ」

当たり前の事だけど、直接言葉にされると心にズキっと突き刺さる

「わかりました……」

私は嫌々スプーンを持ち、ほんの少しの量をすくい口に移す

そしてもう一度、専務を見ると私と目が合う

ーーーたぶん、私を観察しているかのようだ

私は少しづつ、スローペースで無言でスプーンを口に運ぶ

『これは仕事だ……』

って自分に言い聞かせながら

目にはうっすら涙が浮かんでいた



雑炊の土鍋が半分ぐらい無くなった時

「がんばって食べたな」

優しい声が耳に入る

その声はもちろん正面に座っている専務のものだというのはわかっている
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