breath
それからは、目の前にある初めて見る料理を堪能
いつもと変わらない二人の時間
話題はこのホテルの事
実は私は全く知らなかったから
このホテルは有名リゾート会社が運営する会員制のホテルで、会員か会員の紹介した人しか入れないセレブなホテルらしい
ホテルの会員券を持っているのは樹のお母様
記念日があることにご両親がここにやって来ているのだとか
「お母様会社の筆頭株主でセレブですものね」
「筆頭株主はほとんど関係ないよ。ここ数年の経営危機で配当金はゼロだしね」
樹に高宮家の内情を聞くと、お母様の職業は投資家
ちなみに会社を持っていてその会社の代表取締役なのだとか
「知らなかった」
私の知っているお母様は母の親友で、いつもキャピキャピ高笑いをしてる女子学生のような存在
後は、旅行とか自分の趣味に勤しんでいるお気軽主婦のようにも見えた
意外や意外
「知らなかった。ずっと専業主婦だと思っていたから」
「そう見えるだろうね。実は社長の父より母の方が収入が上なんだよ」
「結婚したら母の仕事の手伝いをして欲しい小さな会社なんだけどね。母がそれを希望している。本当は息子である俺が手伝えれば良いんだけど。会社の事業内容がこれだから信頼した人しか頼めないんだって」
「わかりました」
「そう言ってくれると頼もしいよ。仕事に集中できるし」
樹は今、自分がプロジェクトの話を差し障りがない程度に話してくれた
その話を聞くと、やはり会社は危ないっていうことがヒシヒシと伝わる
「不安?」
答えにくい
「例え、会社がどこかの会社に吸収されたとしても俺は大丈夫」
「引き抜きの話とかがあるの?」
「親父が社長の間は頑張るけど退任して匠さんが社長になったら父と一緒に会社を離れる可能性が」
「退職?」
「うん。自分の力で歩いていきたいんだ。ここではいつまでたっても創業者一族としか見られないから」
「でも、きちんと生活はできるようにするから。どうせ俺が社長になれる順番が回って来る頃にはこの会社はないから」
「だから俺について来て後悔しないように、頑張るから」
「わかりました」
その後は将来の話は全くせず美味しい食事を堪能

今日は本当に中身が非常に濃い1日となった
一生忘れることはないだろう
私達は食事が終わってもずっと夜景を見ていた
私は今日という日を忘れないために、この素敵な夜景を目に焼き付けている
樹も何も話さないということはもしかしたら私と同じ気持ちなのかもしれない
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