大事にされたいのは君
「同棲やら結婚やらの予定があったとか。吉岡さんは知らなかったそうですけど、それを知った時に真面目な彼女がどう思うか考えた事は無かったんですか?」
「……」
驚きのあまり声も出ない、その瞬間の兄は正にその言葉通りの反応を返した。ピタリと止まったまま瀬良君を見据え、そのうちに瞳の奥からじわじわと感情が滲み出てくる。
「なんで?どこからその話を聞いた?」
そして、私の方へと視線を寄越す。
「おまえ、いつ知ったの?」
動揺、焦燥、そしてーー苛立ち。
「なんで直接俺に言わねぇの?」
兄は怒っていた。私がそれを知った事、それを兄に言わず彼に言った事、そして出来上がった今の状況。全てが兄を怒らせる要因に間違い無かった。
あぁ、どうしよう。何て言えば…私はまた間違えている。そうだ、ここに居られないだのなんだのよりもまず、兄に確認すべきだったのだ。その確認が済んでからでも居なくなるのは遅くなくて、でもその時の私にはそんな考えが及ばない程の絶望感で一杯で、ただここから離れなければって…
「言えなかったに決まってんでしょ」
…そこに、私を庇う言葉が一つ。助けるように、間に割って入った。
「あんたしか頼る相手が居なくて、だから罪悪感やら何やら引っくるめてあんたの為を想って頑張ってきたっつーのに、それを知らねぇ女が全否定してきたんだぞ?自分のせいであんたが不幸になったって言われたんだぞ?それをあんたに何て言うんだよ」
瀬良君だ。責める口調で兄に踏み込む瀬良君は、一歩も引かず、強い視線を突き刺すか如く兄に向ける。
「変なのに捕まってんのはあんただろ。きちんと始末つけろよ、なんで吉岡さんが泣かされてんだよ。なんで吉岡さんが自分に価値無いなんて言ってんだよ。大事にしろよ、その為に引き取ったんだろうが」